2008年12月17日水曜日

22.日本人の死生観ーその1

自然との一体感の中で生きてきた日本人は、人間の生命も自然の一部ととらえてきました。生命が死に向かっていくのが自然であり、その死を当たり前に受け入れてきたのです。昔は臨終の時が、海の引き潮と重なるといわれました。人間の死とは、自然現象だというとらえかたです。
小津安二郎監督の、「東京物語」の中で、東山千栄子は67歳でこのような臨終を迎えたのではないでしょうか。
ひるがえって現代社会は、自然と接する機会がほとんどありません。都会に住んでいればなおさらです。残り少ない自然は、徐々に破壊されつつあります。われわれは季節感という感覚を喪失しつつあるのです。
その原因は何なのでしょうか。私は科学の進歩が、人間を自然から遠ざける結果を招かせたのではないかと考えています。たしかに、科学は人間に大きな恩恵をもたらしました。食べ物の製法が進歩した結果、一年中世界の食べ物を食べることが可能になりました。医学の進歩によって、今までなら間違いなく死んでいたような病気が、治るようになりました。まことにありがたい時代です。
しかし、ありがたいものを得た半面、失ったものもあります。日本人の場合、それは自然との一体感です。死生観といってもいいでしょう。自然を破壊しながら便利な生活を得たけれども、一方で自然との一体感という日本人にとってかけがえのないものを喪失しつつあるのです。(明日につづく)

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