2009年2月12日木曜日

51.強引な社長

大分前の話ですが、私の取引先の社長が生き残りの世代にあたる人で、長い捕虜生活の末に無事帰還されました。その社長は次々と戦友が死んでいく中で、「どんなことがあっても、生きて帰るんだ」という強い意志を貫かれたそうです。そのこと自体は、立派な行動だと思います。戦争から生きて帰ったのだから、おめでたいことです。彼は帰国後、遮二無二働いて企業を立ち上げられました。成功者です。私が問題にしたいのは、彼の人格です。
交渉ごとは、脅しあり賺し(すかし)あり。強引に、何が何でも自分の思い通りに進めるのです。相手の立場など眼中になく(実は相手をよく観察しているのですが)、ただひたすら自分のために交渉を進めるのです。たいていの交渉相手は、屈服するか逃げ出してしまいました。私はこの人を見ていて、金は腐るほど稼いだけれども、それと反対になくしていったものがあることに気づきました。なくしていったものとは、人間の品性です。
彼にとって一番大事なのは自分であり、二番目は家族。他人の中では、自分の商売に協力してくれる人だけ仲間にしてくれます。彼の価値観は、金や名誉だけです。ともに戦って死んでいった戦友やその家族のことなど、胸中に一瞬でも去来することはあったかもしれません。しかし、それは過去のことであり、大事なのは現在の自分のことなのです。
私はこの社長を見て、戦争で生き残るということは生易しいことではないと思いました。戦争で生き残って帰ってきたという経験が、その後の人生に大きな影響を与え続けたことは間違いありません。そしてこの社長の場合は、その経験がなりふり構わぬ商売のやり方につながっていったものだと考えられます。(明日につづく)

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